マリッジリングの最大限化に向けて
地域の生活者を単なる「情報の消費者」ととらえ、コミュニティの潜在力を無視していたからだ。
外側から闇雲に新しいモノを導入するのではなく、すでに地域にある資源をどう掘り起こし活用するのか?
そのためにはまず、徹底的に人々がどんな風に日常生活のなかで情報と接しているのかを見極める必要がある。
リビングメモリーのプロジェクトは、地域社会という「コミュニティのためのデザイン」を模索していくために、ユーザー=使い手を巻き込んだ「デザインのためのコミュニティ」を同時に組織化していくことによって、真に使い手の立場に立ったデザインを目指したといえるだろう。
人々の「経験」にアクセスするためのデザインリサーチまた、企業のモノづくりにおいても、いままでユーザーと呼ばれてきた人々をどのようにデザインの過程に参画させるかが問われるようになってきた。
とりわけ、多くの人々がかかわりあうコミュニティ型の「コ・デザイン」を目指して、その具体的な方法論を編み出しているソニックリム社の姿勢は注目すべきものだ。
デザインリサーチ会社であるソニックリムは、3M、アップルコンピュータ、コダック、マイクロソフトなどの企業を顧客として、それらのデザインプロジェクトにかかわりながら、どうやってデザインの使い手側がもつ豊かで多様な「経験」をデザインする側に反映させていくのかを研究し、実践している。
彼らの目指しているのは、これまでハイテク製品の分野でお題目のように唱えられてきた「ユーザー中心のデザイン」を超えて、まさにユーザーを巻き込んだ「ポストデザイン」という新しい方向性である。
実は、ソニックリムではユーザーという言葉さえ使わないのだという。
一九九九年、情報デザインに関する国際会議「ビジョンプラス7」に参加するため来日した同社の代表、リズ・サンダースさんはシンプルに「人々」と呼ぶのだといっていた。
「別にユーザーといわなくたって、案外不都合はないもの」と、サンダースさんはプレスカンファレンスで答えていた。
では、ソニックリムはどんな方法で「人々」とともに行うポストデザインを進めようとしているのかフ・彼らが人々をデザインに巻き込むのは、人々の経験-モノ、出来事、場所を通して人々が感じ、行動することーにアクセスするため、だという。
経験とは、何かをデザインする上での大きなリソース(資源)であり、いままでのデザインにはデザイナー個人の経験が注ぎ込まれていたわけだが、その経験のリソースが単独のデザイナーの範囲を超えて広がれば、デザインにおける新たなインスピレーションや想像力の源泉を豊かにし、人々にとってよりインティメイト(親密)で、共感を得やすいデザインが生まれやすい環境をつくることができるだろう。
とはいえ、人々の経験をデザインのなかに取り込もうとすることは、いうほど簡単ではない。
ソニックリムでは、マーケティングや人類学、社会学、心理学、デザインといった異なる分野から導入されたいろいろな方法を組み合わせ、融合させることで、人々とデザイナーのあいだで相互に理解でき、デザインすべきものを明確にしていくための「共通言語」をつくってきた。
具体的には、人々が行う「話すこと(say)」「行動すること(do)」「作ること(make)」という三つの経験のモードに応じて、そこからデザインする側にフィードバックできる経験情報を取りだす仕掛けを開発している。
たとえば、「話すこと」から経験にアプローチする手段としては、会話分析、グループまたは単独でのインタビュー、あるいはインターネット上のコミュニティでの人々の発言を抽出する。
「行動すること」からのアプローチとしては、人類学で用いられるエスノグラフィ(民族誌)を応用した人々の行動観察、あるいはユーザビリティストといった従来からあるやり方のほか、ユーザー自身による日記や写真といった記録、あるいは身の回りのモノの使い方についての分析などがある。
また、非常にユニークなのが、人々が実際にモノを「つくること」を通じて、彼らの経験を記述するやり方だ。
たとえば、ある出来事について、その人が感じたことを一種の地図として描いてもらったり、自分が欲しいと思う製品の模型や、「音楽について」といった特定のテーマに沿ったイメージコラージュをつくってもらったり、といった具合だ。
人々が、自分では簡単に明解には言葉に出して表現できないけれど、何かモヤモヤと抱えもっている想いを「つくること」を通じて、より直接的にかたちにしてもらうのである。
ソニックリムでは、こうした作業のために人々が使うツールキットも準備しているという。
これまでも、企業はユーザーあるいは消費者の声を聞くためにアンケート調査やモニター評価などの情報収集や分析を行い、それを商品やサービスの企画・開発に取り込もうとしてきた。
しかし、多くの場合、それらの取り組みはせいぜい商品企画の「味付け」程度にはなっても、ユーザーとの共同開発までには至らなかった。
これに対し、ソニックリムは、人々がともにデザインできるための道具を作り出し、その「共通言語」によってデザイナーと人々とが本質的な部分でコラボレーション(協働)することを目指しているのが、オープンソース・ソフトなどコミュニティを基盤にしたデザインが台頭してきたこの時代にふさわしい先進的な姿勢だといえる。
そして、敷術するなら、人々とともに行うポストデザインに向けては、デザイナーが果たすべき役割もいままでとは大きく異なってくるだろう。
新しい時代のデザイナーは、人の経験を引きだす「触媒」のような存在になるのではないか、と思う。
たとえば、レゴブロックのように手軽にあつかえるデザインツールが社会に浸透していけば、情報技術によって生活者が自分の好みの商品をオーダーメイド的に、しかもマスプロ並みの安いコストで手に入れられる「マス・カスクマイゼーション」の時代が到来するかもしれない。
しかし、それで一から自分で望み通りの商品をデザインできる人はほんの少数にかぎられるだろう。
そうなった時に求められるのは、人々が漠然と抱いている欲求をハッキリとした「かたち」にすることを手助けし、モノづくりのプロセスを的確に導いてくれる存在だ。
そうした触媒的な役目を果たす存在を、「ミディエークー」と仮に呼ぼう。
ミディエーターとしてのデザイナーは、人々が抱えている「こうしたい」「ああしたい」という漠然とした想いのなかから対処すべき問題を発見し、その解決のための最適な方法を探し出すために、異なるさまざまな職能や専門能力をもつ人々の力を借りながら協同で行っていく活動を組織化していくことになるだろう。
地域コミュニティにおける情報デザインここまで、コミュニティを基盤に置いた協同的なデザインという可能性について考えてきたが、今度は情報のデザインが向かっていくべき関係の束=社会のなかに、どんな問題を発見してデザインの力を向けていくのかという問題について考えてみたい。
ここでも重要なのは「コミュニティ」をデザインの対象としてとらえることではないか。コミュニティという言葉は、今日ではあまりに手垢がつきすぎ、それが指し示す範囲も茫漠としてしまっているけれど、ここではコミュニティという言葉を、その本来の(狭い)意味である「ある一定の地理的な広がりのなかに生活する多様な人々の集まり」、つまり地域社会とほぼ同じものととらえ、地域社会にとって情報デザインがどんな役割を果地域住民の運営を果たすのかを主に考察してみたい。
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